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「否常識」発想で、知識から「知恵」を織り上げる時代

水野:

僕がコンサルティングの仕事のシーンでよく言うことなんですが、「非常識」ではなく「否常識」だと。常識を一度否定する。20世紀的な常識を一度リセットして、21世紀にどういう企業であるべきかと考える。そのときに、先ほど申し上げた、環境についての積極的な取り組みをほかよりも一歩先んじてやれば、ものすごいビジネスチャンスになるんです。20世紀的発想でいったら、リスクはだれが取るのかという話になりますから、人の後に付いていったほうがよかったわけですが、21世紀だとむしろリスクを先に取って研究開発した企業がビジネスチャンスをつかむことになります。

末吉:

「否常識」とは大変面白い。投資の世界でも、いかに先駆けて環境対策に取り組んでいるかというのは、とっても大きなポイントですしね。

水野:

ええ。それに実際、原油の高騰のときでも、油の採れない日本が一番経済的ダメージを受けると思われていましたが、産油国ではないからこそ、 20世紀後半に省エネルギー技術開発を行っていたから大きなダメージを防げたという背景があります。また、環境技術についても、1970年代に公害問題が起きたとき、非常に消極的な受け身の姿勢ではありましたが、それでも企業は環境問題についての取り組みをやってきた。これが、じつはいまになって、ものすごく役に立っているわけです。おそらく中国などへ環境技術や公害防止の技術、省エネルギーの輸出というビジネスチャンスが今後出てくるでしょう。僕はね、マジメに20世紀の矛盾をなんとか解決しようとやった取り組みが、必ず日本のビジネスチャンスにつながると思っているんですよ。

末吉:

おそらく、そうでしょうね。まったく僕もそう思います。

水野:

一方で、株の話でいえば、最近、日本だけが新興市場の株が極端に安くなってしまっています。おかしいと思うのですが、これは逆にいえば、 20世紀後半、アメリカのスタンダードを十分理解しないまま、それが本当にグローバルスタンダードかどうかと疑いもなく導入して浮かれてしまったツケだと思うんです。何度も言いますが、ちょっと待てよ、と疑ってみる。リセットすることです。そうすると、商いの原点でもある(東インド会社によって、世界ではじめて株式会社ができた)19世紀的なところまで戻る必要もあるかもしれませんよね。

末吉:

その点で言えば、環境と金融の世界で、強く感じていることが僕にもあります。
  かつてプラスだったものがマイナスになったり、マイナスだったものがプラスになったりと、いま、モノの価値判断が大きく動いているような気がするんですね。これまで権利だったものが、いまはもう義務だとか、またその逆だとか。大きく対極にあるものを見ていかないと、いま起きていることに対応できなくなってきている。発想の原点が大きく動き始めたと強く感じますね。

水野:

20世紀は「知識」の時代だったと思うんですけど、21世紀は「知恵」の時代。文化的な知識が縦糸だとすると、文明的な知識が横糸。文化的、文明的な知識を縦糸、横糸で織り上げる織物が「知恵」。僕はよくそう言うんです。
  たとえば、夏の暑い日にエアコンをガンガンかけて、屋外に大量の熱を放出して、ヒートアイランド現象をつくっていることに対して、そういえば「打ち水」ってあるじゃない、と。水を打つことで気温が下がる。これ、日本の文化的な知識として当然のもの。これこそ知恵です。西洋文明の「暑ければエアコンで冷やせばいい」という短絡的な発想では、問題は解決できなくなっているということです。

末吉:

海外から新しい考え方、文明的知識を取り入れるとき、そこには必ずバックグラウンドがありますよね。あるバラの花を咲かすのに、1年の四季折々があって、土壌があって、それを咲かせる人がいて、というトータルなシステムがあって生まれたものを、日本では短絡的にひとつのシステムだけを持ってきてしまう。それを取り囲むサブシステムを準備していない状態で持ってきてしまうからダメになる。そういう部分で、日本は西洋との付き合いに、もう少し知恵が必要ではないでしょうか。

水野:

そうですね。日本の企業なんてのは、やっぱりよき企業文化というか、伝統というか、信用を大切にしていく企業文化だったんです。農耕民族的な企業文化だった。そこにアメリカ型の狩猟民族的な企業文化が入ってきたときに、やり方だけを安易にマネしてしまって、日本の文化を捨ててしまう。それで結局、日本でもアメリカの方法でもない、どっちつかずの状態になってしまう。そうすると必ずトラブルが起きる。日本と他国の両方の文化のよいところを取り入れて、縦糸と横糸とで編み上げられたら、本当にすばらしい個性になると思うんですけどね。

「知恵の歯車」で、ボランタリー経済を日本の原動力に

末吉:

政治家をされたとき、経営者を経験されていることで、なにかジレンマのようなものはありませんでしたか。

水野:

20世紀的な政治のやり方は、プロセスが形骸化してしまって、「20時間の会議をしてから決めましょう」みたいな、その間の議論が虚しくなるような……。リアルな経済活動から見たら、本当に時間のムダと思えることはありました。
  ただ、僕は政策も法律もすべてマーケティングという考えで言えば、プロダクト(生産)であって、そのプロダクトが消費者や有権者に正確に理解されて、受け入れられてナンボだと思うんです。このプロダクトがわからなくてもいいだろう、というのは経済活動では売れないわけですから。政治や行政、あるいは医療の世界ですら、マーケティングという発想がない。こっちは専門家なんだから逆らうな、といった感じでね。

末吉:

政治の端的なお金の流れをいうと、国家権力でお金を集めて、それを国家予算というかたちで、お金の使い道を決めて、で、お金を使うという流れですよね。まさに、その予算を組んで、どこにお金を使うかというのが、水野さんのおっしゃるプロダクトですよね。プロダクトの中身が、商品が、社会とマッチしなくなっている。つまり予算を通じてお金を使う道が弱まってきている。じゃあ、だれがその隙間を埋めるかというと、僕が冒頭でも言ったNPOや NGOだと思うんです。彼らのほうが、まさにオン・ザ・グラウンドで、どこにお金が必要なのか、どうお金を流すと、どういうプロダクトができるのか、非常によくわかっている。
  僕は、これを「第2の予算」と呼んでいるんですが、日本国内のお金の流れを、NPOやNGOに回す、つまり彼らへの寄付金や助成金をもっと増やすべきだと思っているんです。

水野:

末吉さんは「第2の予算」とおっしゃったけれども、これは「第3の経済」とも言えるんです。「国家経済(財政)」、企業が行っている「市場経済」、そして第3の経済としてNPOなどが行っている「ボランタリー経済」がそう。営利が目的ではない、お上の活動でもない、民間から自発的に出てくる「自発的経済」という言い方もありますけどね。
  じつはこれ、アメリカでは膨大な経済規模なんです。アメリカの成人の約半数以上が週5時間以上のボランティア活動をやっていて、これはGDP などには決して表れてこない数字。これは重要な国力です。でも、こういったNPOやNGOの役割を、日本の政府はまったく理解していない。

末吉:

ええ、本当にそう! 一度、政府がNGOの存在を否定するような暴言を吐いた事件もありましたからね。

水野:

だから、やっぱり政府も非営利活動の重要性を理解していないんですよ。私は「知恵の歯車」(右図参照)と呼んでいるのですが、「政治」「社会」「経済」の3つの歯車がかみ合ったとき、これ、絶対うまく回らないんです。たとえば、環境問題を大事にしようと「社会」を回そうとすると「経済」が反発しちゃうとかね。そういう問題は、じつはすごく多かった。社会を無視した状態で、政治と経済が一緒になって強引に動かして、国力だと叫んできたのが20 世紀。でも、社会の力が強くなってくると、経済と政治がウッとつまってきてしまった、と。じゃあ、この歯車をスムーズに回すにはどうすればいいかというと、3つの歯車の間に、もうひとつ歯車を入れればいいんです。これが「NPO・NGO」の存在ですね。この弾み車といえる「第4の歯車」を入れることで、政治も経済も社会もすべて同じ方向に回り出す。歯車の潤滑油の役割をするのが、NPOやNGO。まさに、末吉さんのおっしゃるとおり!

末吉:

すばらしい! この歯車の図は専売特許ですか?(笑)

水野:

そうですね(笑)。この歯車は、まだ微力な活動でしかないんですが、小さくても意外と大きなものを動かす力になっていくと思うんですよ。これから私自身の経済的な仕事は現状から少しずつ手仕舞いしていきたいと思っているんですが、その分、 Think the Earthプロジェクトですとか、社会貢献活動の時間を増やしていきたいと思っています。

末吉:

最後によろしいですか? スキャンダルを起こした企業はいっぱいありますが、そういった不祥事から、日本の経営者はまったく学んでいないように僕には見えてしまうんですよ。たとえば、子どもでも、いたずらをして大人に諭されたときに、べつの子どもがそれを見て、自分は同じことをしないようにと気をつけるじゃないですか。ふだんの生活ではそれができるのに、経営者になってみると、一体どうなっているんだと。

水野:

僕は反省の仕方だと思いますよ。食品業界の不祥事でも、じゃあ、うちはバレないようにしよう、みたいなね(笑)。ある意味、さかのぼれば、知識として記憶さえすれば評価されるという日本の受験システムですとか、そういった教育というところまで話はいってしまうと思いますけれど……。僕は経営者の「志」の問題だと思います。なにか関門さえ突破すればいい、上場すればこれでゴールだとか、見つからなければ粉飾してもいいという安易な発想の経営者があまりにも多い。情けないですよ。昔は企業人なり、武士なり、社会人は、なにが大切かという価値観をしっかり持っていたんですがね。だからこそリセットして、20世紀を飛び越えて、19世紀へ、いっそ18世紀くらいまで戻ってくれと。いまの経営者が持つべきものは「志」。やっぱり、これですよ。
一見、同じ方向を向いてうまく回るように見えるがのぉ。じつは3つそれぞれの利害がコンフリクト(衝突)してしまって、歯車は同方向にはうまく動かなくなってしまう。これまでの日本は、それぞれのパワーが上手に発揮できなかったともいえるかのぉ。 3つの歯車のまんなかに、ひとつ歯車をかませると、どうぢゃろう? なんと、コンフリクトを起こしていた3つの歯車がスムーズに同方向に回り出すんぢゃ。これが水野さんの言う「知恵の歯車」! ボランタリー経済は、あなどれない大きな存在だゾ。

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