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実績よりもビジョン。方向感を示せない企業は世界に通用しない

―――環境対策に関して企業にアドバイスする機会も多いと思いますが、環境報告書づくりの面で、必ず枝廣さんがおっしゃっていることはありますか?

枝廣:

企業の環境報告書やCSR報告書を、「つくること」が目的であるかのようにつくっているところが多いんですけど……。

末吉:

そうだね。

枝廣:

でも、報告書はあくまでもPDCA(Plan「計画」、Do「実施」、Check「評価」、Action「改善のための計画・目標の実施」の意味。これを繰り返すことで、活動を継続的に改善していく仕組み)のひとつの手段であって、コミュニケーションの一環。なのに、多くの日本企業では、すごくお金をかけて報告書をつくっていても、それを会社の経営にフィードバックしていないんですね。報告書をつくることに一生懸命なのでしょうけど、それだけではもったいない。ですから私は、環境・CSRコミュニケーションのひとつの歯車として報告書を位置づけることが大事だと言いますね。
たとえば、私が行っている、日本の環境情報を世界に発信するNGO「ジャパン・フォー・サステナビリティ」で、海外で表彰を受けているような報告書を読み解く会をときどきやるんですね。

末吉:

 なるほど。いいですね。

枝廣:

私たちのNGOをサポートしてくれる企業は、現在約80社あります。私たちのように、受益者が海外にいる活動で、しかも、情報というお金にならないと思われているものを扱うNGOは、なかなか助成金や補助金をもらえません。だから自分たちでやるしかない。なので、サポートしてくれる企業や団体のおかげで活動が成り立っているんです。お返しに、法人会員だけに参加してもらえる勉強会をやっていて、そこで報告書を読み解く会というのを開催しているんです。
そこで如実にわかるのが、日本企業の姿勢ですね。つねに石橋を叩いても割れないくらい完璧な結果しかオープンにしない。でも海外の企業は「できるかどうかはべつとして、自分たちはこうしたい。そのために、こう考えている」という情報や、それに対する新着情報も報告書で知らせてい
く、という姿勢があるんです。
2000年くらいに、シェルの報告書を読み解いたことがあったんですが、そこには「これから、KPI(環境やCSRに配慮した経営を進めていくうえで、成果を評価する主要な業績管理指標)として25種類をつくって測定していきます。ただ、今年はまだ始めたばかりで、すべて測定できていないので、25のうち十数種類しか実現できていません」と書いてある。日本の場合、25種類すべて測定できてから発表しますよね?

末吉:

そうですね。

枝廣:

できていないことも含めて発表して、次の年は「いくつできました」と発表する。そうすると、読んでいる人は「次はどれだけいくんだろう」と着目する。そういったプロセスを見せていくことが、人々を巻き込むエンゲージメント(連結、絆)を高めることになると思うんですよ。
日本の報告書はいまでこそ、少しは出すようになりましたけど、以前はネガティブな情報はいっさい出しませんでした。「企業を強くするための報告書」という位置づけでつくっていない。本当にもったいないです。
企業活動は、CSR活動でも環境活動にしても、企業を強くするために役に立たなければ、お金は使えないはずなんですよ、本来。何百万円と使って報告書をつくって、しかも英訳までして、それで企業にどれだけ戻っているかというと、ほとんど戻っていない。

末吉:

いま、時代は将来の方向を決める争いになっているわけです。だから「実績として、なにをやってきたか」とか「どうやってきたか」は、訴える力がないんですよ。「どこを向いて、なにをしなくてはいけないのか」ですよね。ビジョンや方向感。
としたら、いまの話でいくと、企業は「我々は、どういう問題点を認識しているから、そのためにこういったことをしたいんだ」と言って「でも、現実にはできていないけれど、今年より来年、来年より再来年は改善していくので、見つめていてください」というストーリーがないといけない。で
も、だいたいビジョンがないし、しかも済んだことしか話さないというのは、変化が必要な時代に意味がない。少なくとも、世界に訴える力がないですよ。

日本が生き残るために必要なことは、夢を、将来を語ること!?

―――個人投資家の視点で言っても、実績よりも「これからなにをするのか」という情報が欲しいわけですからね。

末吉:

もちろん、そうですよ。アメリカ大統領候補が3人いるでしょ。そのうちのだれが大統領になったら、日本のどの企業の株を買うべきかという話がすでに出ているんですよ(対談日:2008年2月22日)。「ヒラリーならどこだ」と話されている。つまり、方向感が大事だということです。温暖化は現実的に方向性を語る問題だというのに、ですよ。日本はビジョンも方向性も語っていないなんて!
2012年に京都議定書が期限切れになりますが、EUは2013 〜 2020年をどうするかをはっきり示し、2021年以降の方針も提案しています。でも、日本は京都議定書の時代で止まっている。
だから、ヨーロッパの企業は幸せですよ、方向が決まったんだから。どう対応すればいいのか、どこにお金をつぎ込めばいいのか、もうヨーロッパの企業はわかっているわけです。それに引き換え日本は「海図なき航海」という状態に追いやられている。日本の企業は気の毒です。

枝廣:

「ビジョン」っていう言葉は、カタカナでしょ? そこから見ても、もともと日本にはビジョンという概念がなかったし、必要なかったと思うんですよ。これは私の勝手な理論ですが、日本って農耕民族じゃないですか。だから、先を見て考えるというよりも「毎年、あの山の雪が溶けたらどうする」というように季節の、要するに循環を見て考える民族だった。

末吉:

残雪がウサギ型だったら、豊作だ、とかさ(笑)。

枝廣:

そう、そう! ビジョンは必要ない。でも、欧米は狩猟民族で、毎回、獲物の配置が違うわけですよね。だから、きっと木や山の上から見ている人がいて、あそこまで獲物を追いかけて、ここで捕まえて、と計画してやっていたと思うんですよ。だから、ビジョンを持つ必要があったわけです。ビジョンを意味する日本語がなかったこと自体、DNAというか経験も日本にはなかったのかもしれない。必要ではなかったのかもしれない。ただいまはそうも言っていられない時代になってきたわけで。

末吉:

ビジョンの話につながるんですけど、ヨーロッパにネアンデルタール人って、昔いたじゃないですか?

枝廣:

相当、昔ですけどね(笑)。

末吉:

そう。20万年くらい前。あれは約3万年前に絶滅してホモ・サピエンスが生き残ったわけですが、なぜなのか、という説にこんな話があるんです。喉頭の部分にある骨がちょっとだけホモ・サピエンスのほうが大きかったのが要因だと。つまり、ホモ・サピエンスは言葉を持ったんじゃないか、と言われているんです。または言葉の能力がより優れていた。
じゃあ、どうして言葉を持った者が生き残りの秘密になったかというと、言葉は未来を語るんだ、と。狩猟民族でいえば「あなたは、ここにいなさい、あなたは、あそこ。そして、ここで獲物を捕らえましょう」と未来を語れたから生き残れたと言われているんです。これ、非常に重要でしょ。言葉で未来を語れたから生き残れた。だから言葉は過去を語るものではなくて、未来を語るものなんですよ。
その例から学ぶとしたら、言葉では将来を、未来を、夢を語らなくてはいけないですよ。それがいまの日本では失われているでしょ。

枝廣:

ええ、ホント失われてますよね。
これはいろんなところで書いているんですが、ビジョンには2種類のつくり方があって、日本では「フォアキャスティング」式が多い。フォアキャスティングというのは、現状に密着して積み上げていく方法で「いま、これはできる、これはできない」で考えて、できることを優先する、という考え方です。
もうひとつのやり方は欧米でよく用いられている「バックキャスティング」という方法で、現状や制約はいったん脇に置いておいて「あるべき姿はなんなの?
理想的な姿はなに?」ということを先に決める。そこからいまを振り返って、その間をどう埋めていこうか、と考えるやり方です。
それを環境問題でいうと、地球が自然の力で吸収できる二酸化炭素は1年間に31億トン。それに対して、いま人類が出している二酸化炭素は年間72億トン。この72億を31億以下にするまでは、温暖化は止まらないわけです。だから、31億トン以下に減らさないといけない。できるかできないかよりも、そうあるべきというところから欧米は考えて、そのためにどういう技術をつくり、どういう制度をつくるという話をしている。
日本は相変わらず、経済界から受け入れられるかな、というので、積み上げ型のフォアキャスティングでしかやっていないですよね。

末吉:

本当にねぇ(苦笑)。

枝廣:

すごくわかりやすい例があります。私が通訳をしていたときに、アジアでの環境会議で、中国の代表者がこんなことを言ったんです。「我々は50年後の中国はこういう国にしたいと思っている。そのためにこういう政策を打っているんだ」と。その内容が正しいかどうかはべつとして、彼らには50年後のありたい国の姿が見えて、考えているんですよね。
ところが、日本は少なくとも私が通訳をしていた間は、もちろんそういう発言はなくて、「我々はこういう課題に直面している。その課題を乗り越えるために、こういう政策を打っているんだ」という発言ばかり。乗り越えて、乗り越えて、日本はどうなりたいの? 私たちをどこへ連れて行きたいの?という発言がまったくない。きっと考えていなかったのだと思う。なにを目指しているのか、というのが抜け落ちていますよね。

末吉:

おっしゃるとおり。同感です。

枝廣:

それに最近、とくに思うのが、日本っていま、すごく内向きですよね。関心が外に向かない。日本だけ孤立して存在しているかのようで、新聞やテレビの報道を見ていてもそう。国内ニュースがほとんどでしょう。
たとえば、IPCC(「気候変動に関する政府間パネル」=国際的な専門家でつくられた、地球温暖化についての科学的な研究の収集・整理のための政府間機構)の報告が2007年2月に出たときに、ヨーロッパは当然新聞の一面で紹介して、10ページの特集を組んで報道していたそうです。でも、そのときの日本はなにを一面で取り上げていたかというと、(故)松岡農林水産大臣の、あの……。

末吉:

ナントカ還元水!

枝廣:

そう! それが象徴的ですけど、世界の常識が日本には通用していない。末吉さんも先ほどおっしゃいましたけれど、ホント、世界の情報を日本につなげていかないといけないと思いますね。
私、海が好きでよく行くんですけどね。日の出にしても夕日にしても、海の向こうに太陽があるときって、自分がどこに立っていても、海からの光の筋が自分に向かってくるんですよ。ビジョンってそういうものだと思うんです。社会のどこにいても、組織のどこにいても、自分に真っすぐくるのがビジョン。
いまの日本の組織のビジョンって、だれかがつくって、それがだんだん上から降りてきて、だから売り上げは何%アップで、という話ですよね。あれはビジョンではないですよ。30年後、我々はどこに向かおうとしているのか、どういう存在になりたいのかというようなビジョンでしか、人の心は動かないと思うのですが。

 

 

 

 

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